奈良観光の中心部、ならまちの商店街に、ハンドメイドを中心としたお店が並ぶ細い路地があります。そのうちの一軒「えみいろ。」は、奈良の特産品である柿が由来の染料「柿渋」や、日本の伝統色で手染めし、鹿の焼き印を手押ししたレザーアイテムを制作・販売する革製品専門店です。シンプルで洗練されたデザインと機能性を持ち合わせていて、日常づかいにはもちろんのこと、旅に連れて行くのにもぴったりです。
奈良旅の拠点・ならまちの路地奥へ
「えみいろ。」は、革製品をつくる檜山大樹さんと、カラリスト(染色家)である奥様の夫婦ユニット。“笑顔を咲かせる色”をテーマとし、四季の折々や日本の伝統色からイメージする美しい色彩を、独自の手染め技法で表現する奈良発のレザーブランドです。
はじまりは、大樹さんが大阪・谷町六丁目で時計がメインのアトリエショップを開いた十数年前のこと。時計のベルトに似合うレザーを自身で染めてみたことを機に、革製品づくりが主軸に。結婚後にゆかりのあった奈良へ引越し、「えみいろ。」の直営店を立ち上げて10年の月日が経ちました。
店内には、小銭入れ、名刺入れ、キーカバー、アクセサリートレイなど、20種を超える革製品が並んでいます。コンビニやスタバのカップに巻いて熱さをやわらげるカップスリーブや、「消しゴムの服」など、遊びゴコロが光るアイテムも。
奈良のシンボル、鹿がトレードマーク
どのアイテムにも共通するのは、奈良のシンボルである鹿の焼き印です。「大阪時代はハード系の革製品を制作していましたが、奈良に移ってからのあるとき、毎日見かける鹿のイラストをなにげなく描いてみたんです」と大樹さん。その日から鹿が「えみいろ。」のトレードマークになりました。 ちょっぴり上を向いてほほえんでいるような、満ち足りたような表情が、見る人の笑顔をさそいます。
手しごとを大切に、一枚一枚を手染め
選りすぐったヌメ革を、一枚一枚ていねいに手染めする工程から大切にしています。「一般的には、革を染料にドボンと漬け込んで染めた後、革に付いているキズなどのダメージを隠すため、顔料の塗料を革の表面に吹き付けて仕上げられます。そうすると革は傷も隠れて色ブレも少なく扱いやすいメリットはあるのですが、革が本来持っていた表情や味わいが失われて合皮に近くなってしまいます。私たちはキズも模様のひとつと捉え、皮本来の風合いを残した使っていく事で色のエイジングも楽しんでいただける革にするため染料のみで仕上げています」
やさしい色合いを表現するため、革が染料を受け入れる時間をゆっくりと大切にしながら、染めては乾かし、染めては乾かし、数日かけて少しずつ手染めで色を重ねているのだといいます。
経年変化を楽しむ「柿渋染め」
とくに人気があるのは、奈良の特産品でもある柿由来の染料「柿渋」のシリーズ。柿の実を砕き、発酵させて作る古来の天然染料を、刷毛を使って一方向に重ねます。染めては天日干しをする作業を幾度も繰り返すことで、木目調のナチュラルな雰囲気に仕上げているそう。使いづづけるにつれて色に深みが増してくる、そんな経年変化が楽しめるのも魅力です。
現代の暮らしに合う日本の伝統色
柿渋染めのほかに、日本の伝統色のなかから現代の暮らしに合う色を厳選。革のうえで再現するために試行錯誤を繰り返して完成させた、オリジナルレシピの染料で手染めする伝統色のシリーズも。瑠璃(るり)、藤紫(ふじむらさき)、桃紅(とうこう)など、語感も美しい18色がそろいます。
和菓子をイメージしたという半月型の「半月コードクリップ」は、音楽を聴くためのイヤフォンや充電ケーブルなど、長いコードをまとめるのに使います。滑り抜けてしまわないようコードを通すスリットが裏側に付いていて、とても便利なアイテムです。
手縫いのステッチがアクセントの鍵の帽子(キーカバー)は、毎日使う鍵をちょっびりドレスアップしてくれるだけでなく、鍵をキズから守ってくれる役割も。
「縫製も大切なポイントです。ミシン縫いの製品も縫い始めと縫い終わりの糸始末は手縫いでひと針ひと針、ていねいに仕上げています。じつは、ミシンを踏んでいる時間よりも手縫いでの糸始末に心を注ぐ時間の方がずっと長いんです。ミシンだけで仕上げても見た目の違いは分からないものですが、丈夫さはまったく違います。時間と愛情を注いで作っている手染め革だからこそ、長く愛されて欲しいという気持ちを込めています」と大樹さん。
お家の鍵を開け閉めする、大切なアクセサリーを仕舞っておく、コーヒーを飲む、音楽を聴く……なにげない日常のシーンに寄り添ってくれます。 手しごとのあたたかみが伝わるすてきなレザーアイテム、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。